サッカー 子育て

久保建英くんがバルサ・カンテラに入団するために実践したこと

目次

ゴールデンエイジまで、サッカーは親が教える

ヨーロッパで活躍している選手の記事や自伝を読むと、
「父親に影響を受けた」というものが多くあります。

僕のサッカーにおける師匠は父のホアキンだ。
僕の試合の後には、必ずよかったプレイとそうでなかったプレイを指摘してくれ、
次の試合ではどうすればもっとよくなるかというアドバイスをくれた。

「シャビ バルサに生きる」シャビ・エルナンデス著

2歳のときにボールを買い与え、3歳になる頃には自宅の前でふたりでボールを蹴ってた。
私自身はサッカーで飯が食えるようにはなれなかった。
息子にはそうなって欲しかったが、強制はしなかった。
アンドレスがやりたいように、親としてサポートしただけだ。

Number 771号 イニエスタの父親のコメント

こうした言葉にも触発されて、父親の久保健史さんは
「ゴールデンエイジまでは、サッカーが親が教える」と考えていらっしゃるそうです。

お父さんの建史さんご自身は、筑波大学の体育会蹴球部に4年間所属しましたが、
Aチーム(1軍)には所属できなかったそうです。
サッカー経験は高校の3年間と大学の4年間ということです。

建英くんに最初からサッカーをやらせようと思っていた訳ではなく、
ご両親も楽しみながら一緒にサッカーをやってきて、
それらがつながり将来の夢はサッカー選手と話すようになったそうです。

小学校1年生で「バルサの選手になりたい」

建英くんは、幼稚園年中の頃は「プロサッカー選手になりたい」と話し、
年長になると「日本代表になりたい」、
小学校1年生になると「バルサの選手になりたい」、
小学校3年生では「日本代表になってワールドカップで優勝したい」と
成長するにつれて、将来の目標も変わっていったそうです。

建英くんには、やはり「海外一流選手の試合映像を繰り返し見せた」そうですが、
大事にしたのは映像そのものではなく、その時に交わす会話だそうです。
そして考えていたことは、サッカー選手として完成形を求められる18歳までに
何を身につけなくてはいけないかということです。

子供の将来を見据えて、一番身近にいる親がコーチとしてサポートできれば
子供の成長にとってこれほどプラスになることはありません。

バルサに行きたいなら、バルサの練習をする

父親の健史さんは「バルサの選手になりたい」という建英くんの夢を
実現するためにはどのような方法があるかを調べます。

FCバルセロナトップチームに入るには、
カンテラに入るのが近道と考えて、これに入る方法を考えます。

参考にしたのは、村松尚登さんのブログ「日本はバルサを超えられる」だそうです。
このブログで書かれていたのは、
「バルサのスカウトマンが見に来ていそうな国際大会で活躍する」のが正攻法、
また、日本国内で活躍できない選手がバルサのスカウト網の目に留まることはないので、
まずは日本一を目指すことが先決だと思うということです。

日本人がFCバルセロナカンテラに入る3つの方法

1.同学年で日本一の選手を目指す

明確に日本一という基準はありませんが、
日本で行われている全国レベルの大会でMVPやベストイレブンに選ばれるような選手になること、
年代別の日本代表に選ばれるような選手になること
ができれば、日本一に近づいたと言えるでしょう。

2.バルサのスカウトマンが来ていそうな国際大会で活躍する

バルサカンテラのスカウトマンは、トップチームとは別にスペイン全土に22名いると言われています。
ヨーロッパの国際大会には、スカウトマンが視察に来るようです。
日本から参加できる大会としては、ダノンネーションズカップやMIC(地中海国際サッカートーナメント)などがあります。

3.バルサスクール選抜に入り、国際大会に出て活躍する

バルサスクールは、FCバルセロナが運営するジュニア向けサッカースクール(FCBEscola)です。
選手育成のための下部組織であるカンテラとは別に広く技術を教えるスクールがあります。
バルサスクールに入るのは、カンテラ入団ほど難しくはないようですが、
それでも毎年400~500名ほどがテストを受け、初年度以外は50名程度が入学できるそうです。
このスクールに通う選手から優秀な選手を選抜してチーム編成したのが、バルサスクール選抜です。

 

バルサのスカウトの目に留まるためにも、1は必須です。
2については、日本のチームで国際大会に参加して、さらにチームの成績がよいこと、
かつ個人としても活躍することは、非常に難しいでしょう。
まず国際大会で勝ち抜ける日本チームがないといけませんので。
少ないながらも可能性があるのは3の方法と考えたそうです。

日本人がバルサスクール選抜に入る方法も調べたそうです。
日本で開催されているバルサキャンプがあり、ここでその年のMVP(1名)として選出されると、
特典としてバルサスクール選抜に入り、国際大会に出場できるということがわかりました。

お父さんの健史さんと建英くんは、このバルサキャンプでMVPに選出されることに照準を合わせます。

ちなみに、現在は2009年に日本でも開校されたバルサ公式スクールに参加し、
ここから推薦されることでバルサカンテラに入団する道もあります。

バルサキャンプは毎年300名ほどが参加し、
対象年齢は6歳から13歳(小学校1年生から中学校1年生)です。
小学校1年生の時にはMVPにはなれないと参加を見送ります。

バルサキャンプでMVPを目指す

建英くんは、日本開催バルサキャンプに小学校2年生で初めて参加します。
バルサキャンプ参加にあたり、お父さんの建史さんは、どのような準備をすべきか考えます。
「バルサっぽい」選手がスカウトの目にも留まるだろうと考えます。

バルサの最年長スカウトのホセ・アントニオ・二コラは、4つの要素が重要だと話しています。

最初に技術

次に知性

そしてスピード

最後に行動力

(Number 771号より)

実際にバルサのコーチやバルサキャンプ主催者の浜田満さんに
「どのような選手がバルサにとって良い選手か」を確認します。

ボールを止める・運ぶ・蹴るといった基本技術がしっかりしていること

試合・練習の中で正しい選択をしていること

相手と味方の動きを見ながらプレイできていること

プレイ中に何かを常に考えていること、さぼっていないこと

ボールを持っていないときの動きができていること

自己主張できる、コミュニケーションが取れること

このうち、バルサキャンプで行われるボールを止める練習は日本のスタイルと少し異なります。

ボールを遠い足で止める練習(左から来たら右足で止める)

コントロールオリエンタード(自分が動き出したい方向にボールを出す練習)

この2つが非常に重要で、建史さんはバルササッカーへの第一歩と考えたそうです。
実際にバルサキャンプで指導された動きは、
「ボールによりすぎない」
「パスコースを消さない」
「広い角度で受ける」といった基本から、

ボールを運ぶ際には、
「突破する場面なのか、違うのか」
「パスを出すためにスペースに運ぶ」
ということが指導されます。

参加を見送った建英くんが小学校1年生のときに、
建史さんがバルサキャンプを見学し、確認した練習方法を1年間実践します。

その練習方法は、さきほどの2つです。

ボールを遠い足で止める練習

コントロールオリエンタード

この2つをスペインの人たちはトラップの基本ととらえています。

バルサキャンプのMVPは、各会場にて優秀選手の候補を選び、
全日程終了後、バルサコーチの話し合いのもと決定するようです。
主催者から電話があり、MVPに「決定です」と告げられました。
決め手となったのは、「今バルサのカンテラにいても、プレイできるレベルにある」ことでした。

バルサスクール選抜として国際大会に参加

国際大会の日程は、試合前の練習日程を含めて3/29から4/7までです。
久保建英くんは、それより前にスペインへ行き、バルセロナの環境に慣れる期間を持つことにします。

第一関門のMVP選出され、バルサスクール選抜として、
ベルギーで国際大会に参加することになります。
ソデクソ・ヨーロピアン・ルーサスカップという大会で、
大会方式は、U9(9歳未満)の子供たちによる8人制サッカーで、
32チームを8グループに分け、リーグ戦を行います。
1試合15分、前半後半はなく1本のみで、
その後順位トーナメントがあり、
どのチームも最低6試合は戦えるという構成になっていました。

建英くんはバルサのスクール選抜、バルセロナ・エスコラの
一員として参加することになりましたが、
バルセロナでの練習と練習試合を3日行っただけでした。
しかし、大会のプレマッチで6得点し、
本大会予選でハットトリックを上げる大活躍をします。

決勝トーナメントの1回戦はベルギーのRAEC MONSでした。
建英くんが1点をあげ1-0で勝利します。
準々決勝はベルギーの名門アンデルレヒトで、
2-0でバルサの勝利。建英くんは1アシストの活躍でした。
準決勝はオランダのフェイエノールドで、
バルセロナ・エスコラは、0-3で敗戦してしまい3位決定戦に臨むことになります。
3位決定戦の対戦相手はフランスのランスでした。
1-0で勝利して3位入賞を果たします。
3位決定戦での建英くんのゴールはありませんでした。

バルセロナ・エスコラは3位という結果に終わりましたが、
ソデクソ・ヨーロピアン・ルーサスカップのMVPに建英くんが選ばれました。
建英くんは、「俺と同じくらいか、上手いやつが40人位はいて、選ばれたときはびっくりした」と話したそうです。
オスカルコーチによると「得点王だったかもしれない」と話しており、
得点スタイルが1つではなくバリエーションがあったところも評価につながったようです。

同行したバルサキャンプ主催者の浜田さんは、次のようにコメントしています。

国際大会でのMVPは、そう簡単に取れるものではありません。
今大会の久保君のMVPが評価できるのは、「日本人チームで参加した選手が大会のMVPを獲得した」のではなく、
「1人の日本人選手が、バルサの選手の一員として参加した大会でMVPを獲得した」点です。
バルサの選手たちは、常にコーチから母国語で指導を受け、どのようなプレーをしたらいいか、
バルサのサッカーはどのようなサッカーとはどのようなサッカーか、についてインプットされてきています。
そんな中、久保君は、はじめてバルサの選手としてプレイしました。コーチの指示はわからない、
チームメイトとのコミュニケーションも片言でしかとれない。
さらに食事も違えば、生活習慣も違う環境に身をおきながら、
MVPという結果を残したことが素晴らしいと思います。
プレイにおいて久保君の最も優れているところは、
この年にして自分のゴールの形があること、ゴール前での落ち着き+決定力です。
シュートチャンスが3回あれば、2回は必ずゴールを決めていました。

大会翌日にフレンドリーマッチを行い、久保君はバルセロナ経由で日本に帰国します。

バルセロナ・カンテラへの練習参加が決まる

帰国後に、大会に同行したバルサエスコラのオスカルコーチからメールが届きます。
メールでは、建英くんを次のように評価していました。

建英はサッカーの技術が非常に高く、戦術的にも
自分が動かなければならない位置に動くことを知っています。
試合中に、どういったポジショニングをとらなければならないのかを知っています。
彼は「チームがよくなるにはどうしたらいいか」を考えながらチームのために動きます。
この、個人の成功を求めているのではないという点が特によいと思います。
というのも、それは当クラブの哲学だからです。

そして帰国してから半年後、8月に横浜で開催されたバルサキャンプに再び参加します。
そのバルサキャンプの最終日に、オスカルコーチを含むコーチ陣とコーディネーターの方々、
そして建英くんのお父さんである建史さんで食事会を開き、
カンテラ(バルセロナの下部組織)で練習できるよう依頼します。
その後、翌年の年明けに3月末からカンテラに練習参加が決まります。

合格の理由について

バルセロナ・カンテラ入団テストに合格した理由については、
バルサ側からの明確な回答はありませんでしたが、
ニュース等で以下のように取り上げられています。

メンタルが強い、物怖じしない

年上にも遠慮なく指示を出す

わからないことはすぐに聞く

個人技のレベルが高い

ゴールの決定力、素晴らしいのは、自分のゴールの形を持っていること

サッカーに取り組む姿勢、自分自身を客観視できている

視野が広く、状況を把握し、ゲームの流れの中で正しいプレイを選択できる

大人並みのサッカー・インテリジェンスを持っている

シャビ・イニエスタ・メッシのプレイをチェックし、自分のプレイに取り入れていた

スペイン語も本がボロボロになるほど読み込んでいる

父親の建史さんによると、評価され過ぎている部分もありますが、
建英くんの特徴をよく表しているいるものもあり、
これらは最初から全てできていた訳ではなく、
様々な経験を通して身に付けていったということです。

 

久保建英くんとご両親の取り組みは、お父さんの建史さんの書いた本にまとめられています。
本記事で紹介したバルセロナ・カンテラに入団するまでの取り組みの他に、
建英くんが行ってきた練習方法も紹介されています。

サッカーに取り組む子供を持つ親には最適な本

本書は、9歳でFCバルセロナ・カンテラ(下部組織)に入団した
久保建英くんのお父さんである建史さんと奥さんのご両親が
「バルサの選手になりたい」という建英くんと取り組んできた10年間の記録をまとめた本です。

前半部分では、バルセロナ・カンテラに入団ためにバルサキャンプに参加したこと、
そこでMVPになり、バルサスクールの一員としてベルギーの国際大会に参加したことなど、
バルサのコーチとのやり取りも含めて書かれていて、
建英くんを応援しながらワクワクしながら読めました。

「建英くんと同じく、夢を持ってサッカーに取り組んでいる子供、
それをサポートしているお父さん、お母さんのために
ここまでの取り組みについて本にしませんか」と提案され、
「私達の息子はまだ成功しておらず、出版して良いものか悩みましたが、
一つでも皆さんの参考になればと思い、チャレンジしてみることにしました。」
「ごく普通の会社員夫婦と、決して天才ではない息子の10年間の記録のどこかに、
みなさんの参考になる点が少しでもあれば、これ以上うれしいことはありません。」
という気持ちで執筆されたそうです。

お父さんの建史さんと建英くんが取り組んできた練習内容が書かれているだけでなく、
ご両親の教育方針や考え方など、
サッカーをするお子さんをお持ちの親御さんには非常に参考になる本です。

久保建英くんが取り組んだ練習内容については、別記事で取り上げたいと思います。

 

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